お気楽主婦の日常

東北の田舎に住む、ごく普通のおばちゃんの日常や思い出話

じいさん、驚かさないでよ

先日の昼食後、じいさんが生あくびを連発しました。

「じいさん、眠いなら部屋に戻って寝なね」

と、声をかけると「うん、うん」という返事。

ところが一向に席を立つ気配がありません。

「じいさん?」

心なしか、じいさんの顔色が悪くなってきたような気がします。

「じいさん?」

また生あくびを連発。

 

…待てよ?これ、危険なヤツ?

 

「じいさん、左手挙げてみて」と声をかけるも反応しません。

手を触ってみると、両手ともひんやり冷たい。

何度もじいさんに声をかける私を不審に思ったダンナは、「どうした?じいさんの様子が変なの?」と聞いてきました。

生あくびを連発しているのはダンナも見ています。

私もダンナも、まずじいさんの脳血管になにか異常が発生したのではと疑いました。

「救急車、呼ぼう」

119番に電話してじいさんの状態を説明し、救急車を呼びました。

 

救急車が来るまでの間、じいさんを搬送しやすいように部屋の物を移動し、戸を外し、じいさんに声をかけながら脈や呼吸を確認していました。

その作業をしながら、私は以前働いていた訪問入浴のとある利用者さんのことを思い出していました。

 

――利用者さんの家に着くと、奥様が困ったような顔をして「さっきお昼ごはん食べ終わって、お喋りしているうちに様子がおかしくなった」と言うのです。

どういうふうに様子がおかしくなったのか聞くと…

それまで相槌を打ったりおやつの話で盛り上がったりしていたそうですが、急に黙り込んだそうです。そして、ちょうどその時、私達訪問入浴のスタッフが訪れたのだそうです。

部屋に行くと、利用者さんの顔色がまるで血が通っていないような土気色をしていました。脈を計ろうとしても脈が感じられず、呼吸も止まっているようです。

ナース(訪問入浴は、3人のスタッフのうち必ず1人は看護師が入るようになっています)が家族の方に指示して救急車を呼ばせます。家族の方は突然の出来事に半ばパニック状態で、自宅の住所も言えないほどでした。

救急車が来るまでの間は、利用者さんに声をかけ続けながら心臓マッサージ(胸骨圧迫)をしていました。

救急車が病院に向かい、私たちは後片付けをして事務所に帰りましたが、その日のうちに利用者さんの死亡が伝えられました。――

 

顔色の悪さといい、食後というシチュエーションといい、連想するものがいくつかあったのです。

 

救急隊が駆け付けると、異変があった時刻や状況を確認され、じいさんに声掛けして反応を見ながら瞳孔チェック・体温や脈拍などのバイタルチェック、酸素マスク装着…おっと、じいさん嘔吐。

じいさんは椅子に座った状態だったので、ストレッチャーまでは座位を保ったまま移動させて、ストレッチャーに寝かせて救急車に搬入。

受け入れ先の確認をとって救急車は病院へ向かい、ダンナがその後を車で追いかけました。

 

 

さて、慌てて移動した室内の物を元に戻し、まだ食事の後片付けもしていなかったのでそれをして、でも気になるのはやはりじいさんのこと。

あの顔色で、呼びかけても返事もしない様子は、かつての利用者さんの姿が嫌でも頭をよぎります。

 

しばらくすると、ダンナから電話がかかってきました。

搬送中に意識が戻り、ご飯を食べ終わったところから記憶がないと言っていたそうです。

 

病院で、念のため検査をしたところ、脳神経外科の範囲の病変はないことが分かり、食後に胃を動かすために一時的に血液がそちらに集中したため、脳に血が回らなくなって失神したのではということでした。

座っていて頭が高い姿勢から、横になったことで血流が脳に行きやすくなり、意識がもどったのだそうです。

高齢者にはよくあることなのだとか。

 

とりあえず、何か悪い病気にかかったわけではないことが分かったじいさん。

ダンナの車で帰ってきました。

 

 

その後の食事のたびに、じいさんが食後にあくびをすれば冷や冷やし、「じいさん、大丈夫か?」とか「早めに横になれ」とか「水分を摂れ」とか、過剰に心配して声かけしてしまうようになりました。

 

じいさん、三途の川を渡るのはもう少し後でいいんじゃない?